ドロップアウト産婦人科医の生活

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飛び込み分娩

久しぶりに大物がやってきました。

飛び込み分娩とは、妊娠された方が一度も産婦人科を受診せず、臨月近くにいきなり病院にやってきて、出産されることです。

まあ、妊娠は病気ではないので病院に行く必要はないと思われている方や、経済的な理由で妊婦健診を受けられないって人が、世の中には少なからずいます。

でも、子宮外妊娠や妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群)など、異常な妊娠となれば、それで命を落とす場合もあります。ごく普通の、正常妊娠も病院で診察しなければ、わかりません。

若年の、高校生とか、親にも誰にも相談できずに、やむを得ずここまで至る、なんてケースは不幸なことに度々あります。でも今回は、ちゃんとした?大人です。

いきなり、大きなおなかの妊婦さんを目の当たりにしても、母子手帳もなく、予定日がいつなのか、早産じゃないのか、生まれてきてもいい赤ちゃんなのかどうか、情報はサッパリありません。

エコーで大きなお腹をざざっと見ると、赤ちゃんは何とか元気そうだし、胎盤やその他、羊水がちょっと多いかなー、でも赤ちゃんの推定体重は3000gくらいありそうです。
ところが、何よりビックリしたのは、妊婦さんの血圧を測ったら、200を越えていました。
初対面ながら、顔やお腹が浮腫んでるなーと思ってたら、見ると足は象さんのようにパンパンでした。

「どうして病院に来なかったの?」と聞くと、へへっと苦笑いをして済ませています。
9ヶ月近くも生理がなかったわけだし、胎動も感じてたわけだから、知らなかったはずはないよね?!

逆に「どうして今日病院に来たの?」と聞くと、「何となく。」だそうで。
きっと、体は限界だったんじゃないかと想像されます。

「奥さんの妊娠のこと、知ってたんですか?」一緒についてきた旦那さんに矛先を向けると、
「知らなかった。」だって・・・。ホントかよ。そして、ボソッと、「どうせ、俺の子じゃない・・・」と。

・・・。

もう、そこから先の会話をする気にはなれませんでした。

何とか分り易く、管理されていない妊娠高血圧症候群の危険性、緊急性を説明しながら、即入院、帝王切開の話すると、「えぇー!そんな急な・・・、困りますぅ。」

って、こっちが困ってますっ!!

そんな状況で外来診療も滞り、他の予約患者さん達も大迷惑です。

「このままほっといたら、赤ちゃんどころか、お母さんも死ぬよ。」
少々手荒な言葉が出てしまいます。
病院に来られたからには、こちらとしてはやるべきことをしなければなりません。

一旦、待合室に戻った妊婦さんと子供を抱っこした旦那さんは、3人でニコニコ、妙に平和な感じです。

・・・ことの重大性、全然、伝わってない。(涙

もし、赤ちゃんやお母さんが、万が一、不幸な結果になってしまった場合、こういった人達は、どんな反応するんだろう、ふと、思いました。こっちサイドに、わーわー言ってくるのかな。



いろんなスタッフの協力により、緊急手術によって、赤ちゃんは無事に産まれました。

手術中、多めだった羊水と、感染症も分らない多量の血液が、私の下半身にドッサリかかりました。スリッパもぐちょぐちょになって、生温かい感触の中、頑張って手術も無事に終わりました。

大量出血と、術後も続く不安定な血圧と、母体はまだまだ予断を許しません。
赤ちゃんも、大きさは十分あるものの、やはり未熟だったか、小児科の先生のお世話になっています。

飛び込み分娩。大きなリスク。
患者さんにとっても、医療側にとっても何もいいことはありません。

手術が終わり、情報を聞きつけ、患者さんの実母、つまり赤ちゃんのおばあちゃんが血相を変えて病室にやってきました。事後報告となりましたが、状況をお話しすると、娘の代わりに申し訳なさそうに理解していただきました。

よかった。話の通じる人がいて。
これで、きっとお金も払ってくれるでしょう。

飛び込み分娩の場合、高い確率で医療費は踏み倒されます。

そして、ひどい時は、赤ちゃんが置いていかれます。



たらい回し。

あってはならないことですが、こんな状況、受け入れる側からしてみたら、断れる正当な理由があるのならば、正直断りたい気持ちも当然あると思います。

これも修行の一つと言えば、それまでですが、今回は、患者さんが、うちの病院を選び、私の外来へやって来たことが、私にとってのアンラッキーだったってことです。

はー、くたびれた。
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Commented by 寧夢 at 2009-06-14 21:46 x
本当にお疲れ様でした。

二番目の子どもを授かることなく、この都市まで来てしまった私。授かりながらも命を育むことの重大さを、どう思っているのか疑問を抱かざるを得ない人々。

そして、修羅場の現場で頑張っている先生。
こういう最前線の状況を、もっとみんなに知らせるべきですよね・・・。
Commented by pokopen-7 at 2009-06-14 23:05
お疲れ様でした。
本当にこういうこと、あるんですね。
「ことの重大性、全然、伝わってない。」・・・頭にきちゃいます。
Commented by at 2009-06-15 11:16 x
おつかれさまです。
いろんな気持で表現するのが難しいですが、
本当におつかれさまです。
Commented by kurukuruX at 2009-06-18 19:27
>寧夢さん
遅くなりました!ありがとうございます。
こんなケース滅多にないですけどね・・・。でもいまだに、こんなビックリするような、想像もつかない、命知らずの大物の方々がいるんですねぇ。
お子さんを欲しがっている方々には、さらに辛いお話でした。

>pokopenさん
ほんとにそうです!こんなにも日本語が伝わらないのかと、情けなくなりました。共感のコメント、ありがとうございます。また頑張ります。

>と さん
あれから、象さんのような足は、カモシカのように細くなり、降圧剤で安定しています。妊娠が終了しさえすれば、劇的に改善するこの病態は、本当に不思議というか、怖いというか・・・。コメントありがとうございました。

Commented by school-t3 at 2009-06-29 15:42
改めてのコメントありがとうございました。

聞き出されたということではなく、私が聞いていただきたかったのです。
耳を傾けていただいてありがとうございました。

実は主治医の先生にはとても良くしていただき感謝しているのですが
最後の頃の麻薬系のお薬の処方については、(根拠がないと言われるかもしれませんが、)少し残念な気持ちが残っています。終末期の痛み止めについては慎重にしていただきたかったです。

お医者様としてのご判断があるのは分かりますが
患者と家族の声を、取り上げていただきたかったです。
難しいですね。痛み止め。

↑のような妊婦さんに
娘のいた病院でもよく悩まされていらっしゃいました。
先生方本当に大変ですね。

>感染症も分らない多量の血液、
怖いですね。
私の兄は歯科医ですが、患者さんの血液から肝炎になりました。
一生影響が残るみたいで、取り返しがつきませんね。
Commented by kurukuruX at 2009-07-01 22:43
>school-t3 さん
こんばんわ☆ありがとうございます。
患者、家族、医療従事者・・・、いろんな立場からそれぞれ意見があると思いますが、実際の場面で、身内を目の前にしてヤキモキする気持ち、とてもよく分ります。そして医療側からすると、ご家族のリクエストは、どんどん言ってほしいと思います。よりよい終末期医療は、私も初期治療と同じくらい、重要だと思っています。難しいですね。
by kurukuruX | 2009-06-14 12:57 | 仕事 | Comments(6)

只今、二度目のドロップアウト中。


by kurukuruX