ドロップアウト産婦人科医の生活

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告知

最近、うちの病院の方針で、すべての患者さんに対して、病名の告知を希望するかどうかの意思確認みたいなものを、事前に書面でとるようにするようです。

そして医療側からの本人への説明がどこまでされているかを明らかにして、主治医だけが把握しているのではなく、どの医師が見ても分かるように、食い違いがないようにするのも目的の一つのようです。

病名の告知、ここでは特に癌などのような疾患が対象です。

きっと世の中ほとんどの人が、自分の体、病気のことだから、告知してほしいと、「はい」のところに○を付けるのではないかと思います。

患者さんと一緒に治療を進める上では、告知は確かに必要不可欠だと私も思っています。

もちろん、すべての人に対してビシバシと告知していく訳ではなく、小児や高齢者、または個人の背景などを考えながら、臨機応変に対応するべきだとは思いますが。

中には、ズバッと告知せず、ヤンワリと徐々に本人に「気付かせる」ことを良しとする、ベテランの先生方もいます。

これも、微妙な、難しい問題です。


説明会を聞きながら、ふと、お母さんの時のことを思い出しました。


私が初めて、お母さんのお腹の中に溜まっている腹水をエコーで発見した時、CTでお腹の中が既に癌だらけになっているのが分かった時、一瞬にして、お母さんの予後が予測できてしまい、私はつい、嘘をついてしまいました。

上司には、告知しないでほしいと頼みました。

その時、お母さんは鬱もひどくて、ただでさえ生きる気力がない精神状態なのに、そんなこと言ったら・・・、すべて私の独断でした。

手術の直前まで、お母さんは、自分の病気は良性のものだという、かすかな希望に賭けていました。

手術の前の、たくさんの精密検査を受ける、あまりにもしんどそうなお母さんを見て、私は、何度、すべて投げ捨てて、病院から連れて帰ろうかと思ったか分かりません。

大きな手術なだけに、この手術が最後になるかもしれない、麻酔から覚めたら人工肛門とかが付いているかもしれない、なんて考えたら、やっぱりちゃんと言っておいた方がいいんじゃないかと悩みました。

手術の前日、憔悴し切った私が「お母さん、あのね、病気のことなんだけど・・・」と葛藤しながら切り出すと、お母さんは分かっているのか、

「言いたくないことは、無理して言わなくてもいいよ。」と言いました。

私はただ、告白することによって、自分が楽になりたかっただけなのかもしれません。

幸い、手術も無事に終わって、術後にすべてを告知し、その後の目まぐるしい抗癌剤の治療も、流されるように、でも頑張ってついてきてくれました。長かった鬱状態も、新しい目標ができたせいか、自然と良くなっていました。


自分の病気を受け入れるまで、時間はたくさんかかります。

人は、突然自分に降りかかった出来事、医師から突然「あなたは癌です。」と言われ、「はい、そうですか。」と、簡単に前向きになれるわけでもありません。

時間が、とにかく必要だと思います。

でも時間がたてば、きっと頑張る気力も湧いてくると思います。

今では、お母さんと美味しいものを食べたりした時には、「こんな美味しいものも、これが最後かもねー。」なんて笑いながら、冗談も言えるようになりました。

でも、今でも、手術前日の、あの病室での光景を思い出すと涙が出てきます。

お母さんも、あの時の私の辛そうな姿は、今でも忘れられないと言っています。
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Commented by drobs at 2006-09-18 19:04
医大の時、教授先生に教えられた座右の銘の「視病猶親」とは、患者さんを自分の親戚のように介抱すると言う意味を表しましたが、保身の医療に「処置の結果と進展を全て告知する」でも不可欠です。
情けのある扱いか、全ての告知か、今でも考えるほど難しいです。
Commented by はな at 2006-09-18 19:53 x
kurukuruXさん、どうしてそんなにしっかりしているの?
泣いたりしませんでしたか?
今みたいになれるのに、どのくらいかかりましたか?
Commented by りん at 2006-09-18 19:53 x
きっと、お母さんはうすうす感じていたんですかね。でも、自分の娘が苦しんでいる様子を見逃さなかったのは、たとえ鬱であっても娘を大事に思っている、うすうす病状を感じていても尚、娘を慮ってくれたんだなあと、母の愛を感じました。

告知は難しいですね。整形外科では、原発性骨腫瘍・軟部腫瘍は、それを得意とする医療機関へ送ってしまいますが、転移性骨腫瘍だけはたくさん見ますし、原発性骨腫瘍が臓器転移したケースも見ることがあります。どのみち、ターミナルなんですよね。
家族の意向は、たいてい告知をしないでほしいといいますし、その状況になってから患者自身に告知を希望しますか?なんて聞いたら、何かあるんだろうか??と不安をあおるし。。難しいです。

でも、まだ仕事を持っている世代の方には、社会的責任や家庭内での責任が必ずあると思います。だから、余命がいくばくもないのであれば、もし、自分だったら、自分が死ぬ準備をしたいと思う。自分がそう思うからといって、すべての患者さんにそうしていいとは言えませんが・・・。
Commented by Kris.S at 2006-09-18 21:21 x
裁判対策としてはいいかもですねぇ。
学部でも、その手のことを取り上げる授業ってあるんですけど、
訳も分からずグループディスカッション→グダグダな発表→世の中にはいろんなことを考えている人が分かりました→家族を含め患者さんを良くみてこのような問題には対応すべきです
っていう小学生でも出来るような形だけの授業で、要は自分でどにかせいって感じです。
一般的な答えは無いからそうなるんでしょうけど。
Commented by love31happy at 2006-09-18 21:43
先生、随分と辛い体験をされていたのですね。
先生とお母さんの双方の愛情が、痛いほど伝わってきます。
病名告知の意志確認ですか…。
病院もそこまで保身に走らないといけなくなったんですね。
告知→絶望→自殺にならないといいんですけど…。
ちょっと、心配です。
Commented by pokopen-7 at 2006-09-18 22:01
自分だったらどうしようかな~。ママや夫が大きな病気をしたら言うべきか否か・・考えさせられました。
病名を聞いて「頑張ろう!病気と闘うぞ!」って思う人もいれば、「もうだめだ・・」って落ち込む人もいるし、いろいろだからな・・。私のようなアホには難しすぎる問題です。
私だったら、私だけが知らないでいるのはイヤなので、告知してもらい、やれることだけやってみたいと思う。
Commented by もも at 2006-09-18 22:10 x
私の卵巣の腫瘍が良性か悪性か手術するまで分からなくて不安だった時、最初に行った病院で淡々と「悪性か境界線悪性の可能性も否定できません」と言われ、頭が真っ白になりました。
でも、ただただ家族に心配かけたくないので、病院から帰ってきて「なんかね、卵巣に大きい腫瘍があるって。悪性の可能性もあるんだって。やだなー」とだけ言って自分の部屋に駆け込んで号泣しました。
病院でもお会計を待ってる時、涙が止まりませんでした。
結局、家族の前で涙は一度も見せてません。
ただただ体の中で何が起きてるか分からない恐怖と、周りに心配かけたくない一心でした。
最初に行った病院では、あまりに淡々と「悪性かも」と言われ、先生はそんな事、言い慣れてるんだろうし、私の気持ちも分からないだろうなって思いました。
紹介されて行った先の先生は、同じように淡々と言いましたが、「今の医療は進んでます。全力で治療しますから。安心してくださいね」って言われて本当に救われました。
プロである先生から言われると説得力があって「頑張ろう」って思いました。
Commented by もも at 2006-09-18 22:24 x
私は、幸い良性でしたが、病気と闘う人と、その家族の気持ちが少しでも分かるようになりました。
ちなみに、私は、発覚から手術までの約1ヶ月半、もちろん先生の影響もありますが、最初の2週間くらいは一人になると涙が出るって感じでしたが、だんだん覚悟ができてくるんです。
入院中は涙は出ませんでしたし。
時間が気持ちを落ち着けて、気持ちを整理してくれたのかもしれません。
同じ経験をした人に聞くと、やっぱり最初に言われた時が一番動揺してショックで、手術の頃には気持ちの整理がつくと言ってました。
何よりも私よりも家族が辛かっただろうなって思います。
kurukuruXさんも本当に辛かったと思います。
世界中全ての人が健康で幸せであってほしいです。
Commented at 2006-09-18 22:35 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2006-09-19 01:33 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2006-09-19 02:57 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by kurukuruX at 2006-09-19 21:44
>文斌センセ
「視病猶親」確かに今の医療の世界では思い出さなくてはいけない言葉ですね。今回かなり個人的な感情のもとに、難しい問題を提起しちゃいました。

>はなさん
当時は泣きましたよ。あれは失恋した時よりも泣いたかな(笑)。なんだか随分昔の出来事のような感じです。私もまだまだ甘っちょろい医者です。

>りんさん
ありがとうございます、りんさん。
私がここまで家族を思ってしまう人間になったのも、確実にこのお母さんに育てられた証なんだなーと思う今日この頃です。
Commented by kurukuruX at 2006-09-19 22:13
>Kris.Sさん
そうですね、答えのない問題ですね。保身の医療にならざるを得ない現実と直面しながら、でもこの仕事はやっぱり人を相手にする仕事で、しかもその人、患者さんの考えや人生そのものに一部触れるような、深い仕事・・・日々勉強っちゅーことですね。

>さきさん
さきさん、ありがとう。告知も、しっぱなしじゃなくて、精神的にもちゃんとフォローできる体制じゃないとダメですね。なかなかそういうところ日本は苦手なのかもしれませんが。

>pokoさん
どんな人にとっても難しい問題ですよ。でも考える機会になってくれたらそれだけで十分だと思います。答えは簡単には出ませんもん。
Commented by kurukuruX at 2006-09-19 22:30
>ももさん
その時の動揺、ショック、しかも1人だったら尚更ですよね。お察しします。経験のない自分が言うのもなんですが。でも良性で本当によかったですね。「悪性かもしれない」と言う言葉は、たとえ可能性が低くても疑われれば、医療側は後々のことまで考えてやっぱり言ってしまうんですよね。でも言い方ひとつだと思います。
「今の医療は進んでます。全力で治療しますから。安心してくださいね」って、これ今度使わせてもらいます!

>鍵コメ22:35 さん
はい!伝えます!なんちゃって。
そういう目で遠くから拝んでみます。
Commented by kurukuruX at 2006-09-19 22:51
>鍵コメ01:33 さん
それぞれみんな、困難を抱えて生きているんですね。
鍵コメさんもどうぞ、お大事にしてください。
「自分にできる範囲でしか頑張れないから、弱音を吐きつつ、それでも前進できれば」←いいですね、これ。(非公開なのに一部抜粋、公開してしまいました。)

>鍵コメ02:57 さん
つらいお話でした。ありがとうございます。
私だったら発狂してます。間違いなく。
そして、身につまされるような、でもまた気を引き締めたくなるような、そんな気もしました。
応援ありがとうございます。でも私はどうも感情論に走りがちなダメな医者です。あまりプレッシャーかけないでください(笑)。鍵コメさんもがんばって!私も応援してます!
Commented by Dr. I at 2006-09-19 23:18 x
お母さんは残念でしたね。
でも、結果的に、一番良い方法を取られたと思いますよ。

循環器内科は、ガンが少ないので、告知するかしないかで迷う判断というのは少ないんですが。

非常に難しい問題ですねー。
Commented by hirata at 2006-09-20 01:14 x
 告知の問題は難しいですね。要因が複雑すぎますから。画像診断やバイオプシーから見た客観的な進行度、医師患者間の信頼関係、本人や家族の医療機関に対する信頼関係、患者や家族の疾患に対する知識と理解力、医療スタッフ側の心のゆとり、患者や家族の側の心のゆとり、など関連する要因が多すぎるので、実際にはケースバイケースでベストの方法を模索せざるを得ないでしょう。
 同じ内容の情報でも、家族や勤務先の理解が得られて前向きに治療を受ける気持ちになっている人と、周囲に迷惑をかけて申し訳ないので早く仕事に戻りたいと焦っている人では、事実の受け止め方が違うでしょう。
 医療側も、患者さんの個人的な事情を把握していて、その上で最適な治療法の提案と次善の策を説明できるようなゆとりがあるときと、過酷な勤務体系の中で何とか最善を尽くそうとしているのだけど、それが同じ病院の同僚にも理解されずに燃え尽きそうになっている場合とでは、同じレベルの説明ができるとは思えません。
 でも、人間はつらい経験も糧にできるんですね。お母様の病気のことで
さんざんつらい思いをしたはずのkurukuruX先生が、元気ハツラツオーラで、周りを明るくしているのですから。
Commented by jyubon at 2006-09-20 09:15
そうですね。難しい問題です。
入所者でもターミナルで病院では治療の施しようがない方が戻ってきます。
デュロテップパッチ(でしたっけ?麻薬の貼付剤)を3日に1回貼る方もいらっしゃいました。
本人は告知されてなくても解るんですよ。あの入所者を見て思いました。
だけどそんな難しい問題をクリアした先生がいる。先生天晴れ!自分で自分を褒めてあげてね。
Commented by kurukuruX at 2006-09-21 19:36
>Dr.Iさん
はい。私も、後になって一番いい方法を選んだって思っています。
「後悔したくない」、この一心で、なりふり構わず、精一杯頑張りました。

>hirataさん
今の医療の世界では、患者さんと医師の間の溝がどんどん深まっているような気がします。みんな、強さも弱さも併せ持つ同じ人間で、ただ信頼関係、良好な人間関係を築けばいいだけなのに・・・。温かいコメントありがとうございました。頑張ります。

>じゅぼんさん
へぇー、パッチ貼ってる人もいるんですかー。大変だなー。
私は問題をクリアしたかどうかは分かりませんが、こうやっていろんな人達に温かく評価してもらって、あー、よかったんだなーと感じる毎日です。
Commented by 産婦人科5年目 at 2006-09-24 17:46 x
実の親の病気、特に癌というのはつらいですね。私たちは普段医療を行う中で毎日生死を扱って、それが誰にも平等にやってくることを死っていながら、それがまるで自分とは関係ないと思っていまうのですよね。
kurukuruさんのつらい気持ち、よくわかります。でもお母様が現実から逃げずに受け止めることができたのはきっと先生の親を愛する気持ちが伝わったからだと思います。
 私も高校生の時にある日突然不整脈で父親をなくしました(ゼクの結果、持病はなく医師であった父はおそらく過労死)。父がいたら・・・と考えることはたくさんあり、生前にもっとこうしておけば・・・と悔やまれることが多かったです。
 もちろんkurukuru先生のお母様にはもっと長生きしていただきたいですが、誰しもこの世ではいずれ終焉をむかえる時が来ることをきちんと受け止め、大切な時間をすごしていただきたいと思います。

長い文章ですみません。また今日も当直してます。ちょっと先生のメールを見てホロリときてしましました。
Commented by kurukuruX at 2006-09-25 23:30
>産婦人科5年目さん
長い文章大歓迎です!貴重なコメントありがとうございました。
「誰にも平等にやってくることを知っていながら、それがまるで自分とは関係ないと思ってしまう」本当にそうでした。いざ身内の身に起こると、恥ずかしながら、素人のようにアタフタしちゃいました。でも代わりに、忘れかけてた、時間を大切にする気持ちに目覚めることができました。
度々の当直本当にお疲れさまです。どうかセンセイも体を壊さないように、平和な当直であることをお祈りいたします。
by kurukuruX | 2006-09-18 17:56 | おかあさん | Comments(21)

只今、二度目のドロップアウト中。


by kurukuruX