先日、外来で看護師さんから呼び止められました。
「先生の姿を見かけて、ぜひお会いしたいという患者さんが今そこにいるんですが。」
その人は5年前に私が担当し、手術した患者さんでした。
私自身の療養を機に、今は別の先生にバトンタッチして、定期検診に通われています。
受け持ちを離れたとはいえ、私も経過が気になっていました。
当時、その人の受診日には検査結果をお互い緊張しながら確認していたことが思い出されます。
卵巣癌や卵管癌は ”silent cancer” といわれるくらい、自覚症状が出にくく、早期発見・治療が難しい病気です。少し前に話題になったアンジェリーナ・ジョリーのように、遺伝的にハイリスクだと分かっている人が予防的に摘出してしまうのも、病気を回避するいい手段かもしれません。
お母さんのときも、まさに典型的な進行期の状態で見つかり、予想通りの経過をたどりました。
彼女の場合、ただの健診で訪れた初診の際に認めた、ごくわずかな腹水がきっかけでした。
いつもなら生理的腹水として済ますところでしたが、わずかにひっかかるものを感じたのを覚えています。
苦痛を伴う二次検査に悩む患者さんを説得し、検査をしたら、それがビンゴだったのです。
そして予後の悪い癌だったにもかかわらず、5年以上が経過した今も病気の芽は出てきておらず、
「こんなことも実際あるんだなー。」と感慨深く、改めて人間の体の神秘性、複雑さに感心させられました。
画期的な検査や医療技術が日々進歩する今でも完璧な検査はなく、タイミングや偶然的な要素に左右されたりと、人の体の不具合の原因、病気を見つけるということは、いかに難しいことか。
月並みですが、”定期的な”健康診断って大切です。
1回で見つけられたら逆にラッキーなくらいです。
たまたま今、健診業務に関わっていますが、病気を治すだけではない、いかに早く見つけられるか、そしていかに予防するか、これまた日々勉強です。
彼女は久しぶりに私の顔を見ると、人目をはばからず涙を流し、感謝の気持ちを何度も何度も言ってくれました。
そして、先生もどうかご自愛ください、と。
もともとキレイな人だったので、すっかり元のお洒落な彼女の姿は、まるで病人には見えない、それはちょっと奇跡に近い感じでした。
私もとてもうれしく、励みになるのと同時に、
これから先も彼女自身の人生をめいっぱい楽しんでいってもらいたいなと思いました。